じいちゃんが死んだ

ショートエッセイ

夜10時という遅い時間にぜったい電話なんかかけてこない母親から着信が入ってきた。
いやな予感がした。

あまりにも突然のできごとだった。

アンテナの位置を調整しようと屋根に登ろうとしたとき、脚立から足を踏み外し落下。
頭を強く打ったことにより意識を失い、そのままじいちゃんは息を引き取った。

毎日の一時間のウォーキングをかかさずやって、週二回ゴルフや釣りに行って、家で時代劇やサスペンスばかり観る。先週じいちゃんと電話したときにはコロナウイルスが落ち着いて暖かくなったら福岡に遊びに行くからなー!とも言っていた。

とにかく90歳とは思えないほど元気すぎるじいちゃんだった。
会うたびに、「ほんとにじいちゃんは元気やね~まだまだ心配ないね~こりゃ下手すりゃ俺が先に死ぬわww」などと言って談笑していたもんだ。

8年前ばあちゃんが他界したが、病気で衰退しきってたのもあって俺もある程度の心の準備をすることができていた。

しかしあまりにも突然すぎるじいちゃんの死。

”じいちゃんの死”という知らせを母親から受けた時、正直俺はまだあまり実感がわいていなかった。

俺は昔から”人間は死ぬために生きている”と思っている。

この世に”生”を受けたからには必ず”死”がある。

”生を受ける”という始まりがあるからには”死”という終わりが存在する。
ものごと全てには必ず終わりが存在する。

その必ずくる”死”がやってくるまで、人間をはじめとして”生”を受けたものは喜び、笑い、苦しみ、もがきながら日々を生きていく。

生きていた。自分はこの世に存在していた。という証を得るために生きていく。

その事実も皆知っているはずなのに日常生活で考えることはまずない。
もちろん俺だって普段考えない。

だからこそ、じいちゃんの突然の死ということにいまいちピンときていなかったのかもしれない。

もやもやした気持ちがありながらも、土曜日普通に仕事を終わらせ次の日実家へ帰省した。

俺の実家は山口県の田舎だ。

駅を出ると幼少期過ごしたのどかな風景が広がる。俺が幼少期過ごした時と何も変わっていないのどかな風景。

親族が集まっている会場へ。

あまり頻繁に実家に帰省しない俺は、久しぶりに顔を見る親戚に挨拶をしてまわった。

ジャンレノにめちゃくちゃそっくりな父親の弟。
10年ぶりに再会したがますますジャンレノになっていた。

死んだじいちゃんの弟の孫。
こいつとは15年ぶりの再会だ。あんなに小さかったのに今では社会人2年目だと。
俺より高収入っぽい。

死んだじいちゃんの孫の母親。
同じく15年ぶりの再会だが、昔はあんなに綺麗だったのにちょっと顔のシワが増えて劣化版ギャル曽根みたいになっていた。

あらジスちゃん。相変わらずかっこいいわね。などの談笑を挟みつつ、じいちゃんが眠っている棺がある部屋に足を踏み入れる。


死化粧を施し棺に眠るじいちゃんを見た瞬間、はじめて”じいちゃんが死んだ”という実感が俺の脳天を直撃する。俺がじいちゃんが死んだという事実を実感した瞬間だった。

涙が溢れ出そうになる。

でも俺は泣くのを我慢した。

幼少期の俺はめちゃくちゃ泣き虫な少年だった。なにかあったらすぐに泣いていた。
そのたびにじいちゃんは「男の子だったら泣くんじゃない絶対泣くんじゃない約束だ」って笑顔でよく言っていた。

死んだじいちゃんが棺の中でもそう言っているような気がして涙をぐっとこらえた。

「わかったよじいちゃん。」と棺の中のじいちゃんと約束して通夜と葬儀にのぞんだ。

通夜と葬儀はなにごともなく進行した。
相変わらずお経というのはどこがサビなのかわからない。いったい作曲者は何を思って作ったのか。

棺の中に顔が見えなくなるくらいのたくさんの花束でじいちゃんを囲む。

みんな泣いていた。

霊柩車の中でじいちゃんのことを思い出し溢れ出しそうになる涙を我慢する。ここで泣いたらじいちゃんにまた怒られちまうからな。

火葬を待っている間も必死にじいちゃんとの約束を守ろうと平静を装っていた。

そしてじいちゃんの最期を見届けた。




人が死ぬとなぜ悲しいのか。なぜ涙が出るのか。
それは死んだ人との思い出が涙を溢れ出させるのだ。

一緒に腕相撲した

一緒に釣りにいった

プロレスも一緒に観戦に行った

他にもいろんなとこに連れてってくれた


いつも笑顔で笑ってた


あの頃の俺の心に存在していたじいちゃんと過ごした思い出が


もうこの先、思い出を一緒に作ることができないという事実に涙が出るのだ。


”死”は誰しもがいつか訪れるものだ。

そして当たり前ではあるが悲しいものだ。

しかし誰かの”死”を介して親戚一同が集まり、親族の絆というものを再確認できる。
親族一同で死者を弔うという同じ気持ちを共有できる機会はそうない。


そんな機会を与えてくれたじいちゃん、ありがとう。

そして生前、本当にこんなどうしようもない俺を可愛がってくれてありがとう。

いつも笑顔で接してくれてありがとう。

本当尊敬できる優しいじいちゃんだったよ。

ゆっくり休んで。


そして最後に、葬式前にした”男の子だったら泣くな”っていう約束を今この瞬間に約束を破ってしまったのは謝っておくよ

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