小学校の頃仲のよかった友だちの一人に土田というやつがいた。
あだ名は”つっちん”
口癖は”伝説を作る”
ことあるごとに伝説を作りたがるファンタジスタベイベーだった。
そして土田はとにかく負けず嫌いだった。
スマブラでは負けそうになったら必ずノーコンテストにするし、ドラクエモンスターズテリーのワンダーランドではプロアクションリプレイを惜しみもなく使い、デスタムーア最終とわたぼうを配合することでようやく作れ、通常であれば1体しか作れない最強モンスター、ダークドレアムを増殖させ、あげくのはてには、『流星』とかいう謎の技を覚えたダークドレアム3体で対戦を挑んできては俺の育てたモンスターをボコボコにする、といった勝つためには手段を選ばない男。
それが土田だった。
俺は子どもながらにして接待プレイという概念を学んだが、それでも土田と遊ぶのは楽しかった。
土田は小学校高学年の頃から突然、『野球で伝説作るわ!」と言い、野球にハマりだした。
小学校4年くらいまでは一緒によく遊んでいたが、土田は野球。俺は変わらずアニメやゲーム。思春期になり別々の趣味に向かうことになったのだろう。土田が野球にハマりだしてからは日常会話程度はしていたが一緒に遊ぶ機会はなくなった。
そんな俺と土田だったが、小学校6年の時に、また話す機会が増えることになる。
きっかけは屈指の名作野球漫画『ドカベン』である。
俺の地元山口県では当時、水曜日の深夜にドカベンのアニメが放送されていた。
当時スポーツを題材にした作品はあまり好きではなかった俺だが、当時から深夜アニメを見るのが習慣になっていた俺はドカベンもチェックしていた。
なんと、そのドカベン再放送を土田も見ていたのだ。
会話が少なくなっていた俺と土田を、ドカベンが再びお互いを引き寄せたのである。俺と土田はドカベンの話で学校の休憩中にドカベントークで終始盛り上がっていた。
美少女アニメやエロゲの話は当時仲の良かった大原君と古谷さんとよく話をしていたのだが、ドカベンの話はもっぱら土田だった。
とある昼休み。俺と土田は変わらずドカベンの話をしていた。
やれ今週の里中はめちゃくちゃかっこよかっただの、やれ土佐丸高校の生徒は本当に嫌なやつだの、各々がドカベンについて熱く語っていた。
各々ドカベンについて語りテンションがあがってきた俺と土田は、唐突にドカベンのOP再現をすることになった。
ドカベンのOPを見たことある人ならご存知だろうが、OPの『か~まえたミットがう~けとめる~』の部分で、山田がベンチに向かってベンチの椅子を破壊しながらタックルし、ボールをキャッチするシーンがある。
観たことない人は一度動画サイトなどで観てきてほしい。
俺と土田はそのシーンを再現することにした。
まずは俺から再現することになった。
ドカベンのOPを熱唱しながらベンチに見立てた机と椅子に突進する。そしてボールをキャッチするかのように両手をあげる。これで俺と土田は爆笑していた。
しかし、俺のこの再現率がよっぽど高かったのか。はたまた俺の演技力がすごかったのか。俺のOP再現は、周りで見ていたドカベンを知らない他のクラスメートにもウケたのだ。
バカなことやってんなぁwwくらいの印象だろうがとにかく、思った以上にウケたのだ。思った以上に周りからウケたし、ドカベンOP再現できたのは最高に気持ちの良かった瞬間だ。
しかし俺の華麗なる再現力にいい顔をしなかったやつが約1名いる。
そう。負けず嫌い土田だ。
土田『ぜったい俺ジスさんより綺麗に再現する自信あるわwww』
俺『おwwつっちんに俺の再現力を超えることができるかな?ww』
そんなやりとりを交わしつつ、自信満々にドカベンのOPを熱唱しながら机にダッシュで突進する土田。複数の机を巻き込む見事な突進っぷりだった。
俺『おーwwww見事なぶつかりっぷりだーwww再現力たけーwwww』
土田『いてぇ!!いてぇ!!』
!!!!!?????
土田のドカベンOP再現を爆笑するはずだったが、土田がいてぇと喚きながら起きあがらないのだ。すぐさま異変に気づき、先生を呼び、土田は救急車で運ばれていった。
結果、土田は右腕を骨折していた。
幸いなことに1ヶ月ちょいくらいで土田の腕は完治し、野球の練習を楽しそうにしていた。
後日俺と土田は担任の先生からウンコ漏らすくらいキレられ、ドカベンのOP再現禁止令を言い渡された。
土田はすぐに腕が回復したことと、昼休憩中にドカベンのOP再現をして骨折したという事実に『いやぁ俺伝説作ったわ~ww』と満足気な笑顔で笑っていた。
土田伝説第一章である。
中学生になっても土田とは変わらずドカベンの話や日常会話はしていたが、俺は進学校、土田は工業高校に進学するとのことで中学を卒業と同時に会う機会はなくなった。
時は過ぎ、高校3年の12月。
皆、志望校に合格するために勉学に励んでいる中、俺はゲームセンターに向かうためチャリンコをゲキ漕ぎしていた。そう、当時の俺は大学進学よりも日中はゲーセンでポップンミュージック、夜は家でアニメやエロゲをしたり、ニコニコ動画でコメント荒らしをすることに熱心で、我ながらくそみたいな生活を継続させていた。
ゲーセンに向かう途中、実に3年ぶりに土田と再会する。
俺『つっちんめちゃくちゃひさしぶりやん!まだ野球続けてんの?』
土田『高校に入ってすぐに野球辞めて、大学に行こうって決意して勉強してるんだぜ!』
話によると、土田の通っている高校は卒業後、大学に進学する人は全くいないらしく就職する人が大半らしい。
土田が大学に進学すれば、実に30年ぶりに大学に行く生徒になるということだ。しかも土田が志望しているのは国立の大学だった。
俺『おーすげぇじゃん!マジで応援してるわ!』
土田『おう!伝説になるわwwwジスさんは大学進学?』
俺『その予定だけど今からゲーセン行くわ!』
あの頃の楽しかった日々を思い出しながら久々に土田との会話に盛り上がる。その後笑顔で手を振り別れを告げ、俺はゲーセンへ向かった。
土田は負けず嫌いだが、人一倍努力するやつだ。
きっと大学にも合格するだろう。
俺は土田の合格を心から願っていた。
そんなこんなでまた時は過ぎ、高校を卒業してすぐ、中学時代の友人数人で集まろうという話になり、俺はその会に参加した。その中に土田もいた。
皆高校がバラバラだったのもあり、久々の再会である。
高校卒業後の進路や昔の思い出や童貞卒業したかのような会話で盛り上がる。
友人A『そういやつっちん大学受かった?』
土田『いや聞いてくれよwwwそれがさwwww』
ここで俺含む友人一同は衝撃の事実を知る。
センター試験当日。センター試験は全てマークシート式であることはご存じだろうが、自分の名前もマークシートで一文字づつマークしていく必要がある。
土田は回答をマークすることで頭がいっぱいになり、自分の名前をすべてマークし忘れていたことに気づいたらしい。
土田がそのことに気づいたのは昼。すでに2科目の試験が終了しており、途中でセンター試験を放棄し退出したとのことだ。
一同爆笑していた。
やはり土田は伝説になっていた。
この角度から伝説を作るとは。
やはり土田はすごいやつだ。
土田『とりあえず今から無職だが、絶対に俺はこれからも伝説を作ってみせる!!!!』
最後に土田と会ったのは今から12年前。あれから一度も土田とは会っていない。
今も彼はどこかで伝説を作っているのだろうか。
はたまた、伝説作りに没頭した結果、自分を見失っているのだろうか。
それは土田しか知らない。